遺伝子組み換え綿花とオーガニックコットン

 一昔前に世間を賑わせた「遺伝子組み換え食品」。品種改良とは異なり、違う種の遺伝子を組み合わせることでメリットを生み出す反面、健康問題への指摘が問題となりました。

 そして綿花も、遺伝子組み換え作物の一つです。英語ではGenetically Modified Organism(遺伝子組み換え作物)といい、GMやGMOと略します。遺伝子組み換え綿花のことはGMコットンと呼ばれます。決して最上級グレードのGM(Good Middling)のことではありません。

 では遺伝子組み換えされた綿花とはどのようなものなのか。主に付与される特性は「除草剤(農薬)への耐性」と「害虫対策」です。

 除草剤は世界最大手のバイオ化学メーカー・モンサント(Monsanto)の「ラウンドアップ」が有名です。日本国内の農協などでも発売されています。種に除草剤耐性の遺伝子を付与することで、除草剤を散布しても綿花は枯れず、周囲の不要な雑草だけを枯らすことが出来ます。

 綿花にとって最も有名な害虫は「Heliocoverpa zea(通称:Cotton Bollworm)」という蛾の幼虫です。綿が開く前の綿の実の中に入り、中身を食い散らかす虫です。このような虫が嫌いな、あるいは食べると死んでしまう毒性をもつ遺伝子を組み合わせることで害虫対策としています。ちなみに日本で綿花栽培をする場合は、葉巻虫とナメクジに注意が必要です。

 農薬耐性は農薬散布の手間が省けますし、害虫耐性は殺虫剤の量を減らせます。農家にとっては良いことであっても、消費者側からすると遺伝子組み換え作物に対して懸念することもあります。あるサイトでは、遺伝子組み換え農業が作り出す問題として以下の点を挙げています。

  • 健康に悪影響を与える可能性が高い。
  • 自然環境を破壊する。
  • 有機農業、従来型農業と共存できない。
  • 世界を養えない、持続可能ではない。

 一つずつ考えてみましょう。現時点で遺伝子組み換え作物が人体の健康に与える影響について、明確な見解は確立されていません。発がん性が上がるとか、妊婦の場合胎児に影響が出るといった結果もあるようですが、それらは必ずしも遺伝子組み換え作物「のみ」の影響とは断定できません。

 確かに自然環境、とりわけ生態系に与える影響はあるかもしれません。しかしそれが必ずしも環境破壊に繋がるわけではありません。むしろ農薬や殺虫剤の量を減らすことが出来るのならば、それは自然環境に良いのではないでしょうか。

 有機農業とは共存できません。綿花における有機農業の代表格はオーガニックコットンです。オーガニックコットンの定義要件に「遺伝子組み換え種子を使用していない」という項目があります。しかし共存は出来なくとも、併存は出来ます。どちらか一方に傾くのではなく、双方を良いバランスで保つことが出来ればそれがベストです。

 Sustainability(持続可能性)は現在の綿花業界のトレンドワードです。例えば水の消費量が他作物と比べて多い綿花栽培に対し、水消費量を減らすことで費用を減らし農家の生活を向上させようといった取り組みです。オーガニックコットンも含まれますが、この分野で最も有名なものはBCI(Better Cotton Initiative)です。BCIは実現が難しい「ベスト」ではなく実現可能な「ベター」な選択を広げていこうという取り組みで、BCIでは遺伝子組み換え種子の使用を認めています

 

 かつて世界最大の種苗会社であるモンサントは、徹底的な反対からヨーロッパでのGMO(綿花以外の作物含む)普及を諦めたことがあります。しかし現在、実際にギリシャなどではGMO種子を利用して、作物が生産されています。

 2014年12月に、農林水産省によって「栽培用の遺伝子組み換えワタ種子」の輸入規制の強化が行われました。元々遺伝子組み換えに関する法律であるカタルヘナ法により、遺伝子組み換えされた綿花種子を飼料として輸入することや使用は認められていますが、遺伝子組み換えされた綿花種子を使って綿花栽培を行うことは認められていません。

 この時、たまたま輸入植物検疫の際、栽培用として輸入された種子が検査の結果遺伝子組み換えであったことが判明したため、問題視されました。それ以降、サカタのタネやタネのタキイなど国内大手種苗会社でも米綿など遺伝子組み換えが疑われる商品の販売を中止しています。

【参考資料】栽培用ワタ種子への遺伝子組換えワタ種子の混入について(農林水産省, 2014.12.25)

 本サイトでも、この発布以降に日本でアプランド綿の栽培を行おうと、GMコットンではないと謳うギリシャの会社から綿種子を輸入しようとしたことがありました。結果、輸入植物検疫の検査でアウトが出て、輸入許可が下りず、関税に没収されました。その先の行き先は知りません。

 このように遺伝子組み換えされた綿花は、栽培している農家本人ですら知らないようなところで、世界中に広がっているのが現状です。そして遺伝子組み換えがされているかどうかは、個人での判別は不可能で、科学的な検査でしか判別できません。なお、農林水産省ではこの問題以降、希望があれば種子の遺伝子検査を受け付けるとしています。

 

 これまで述べてきたように、当ブログでは遺伝子組み換え綿花の批判はしません。なぜなら、それがなければ綿花業界、もっと大枠で捉えるなら世の中が成り立たないからです。いまや全世界の90%以上(参考資料によって異なるが)の綿花が、遺伝子組み換え綿花です。つまり今あなたが持っている綿製品の衣類の90%は遺伝子組み換え綿花から出来ていますし、綿実油の9割は遺伝子組み換え綿花の種子から生産されています。

 これほどまでに遺伝子組み換え綿花があふれており、もはや遺伝子組み換えでない綿花は、イコールでオーガニックコットンと言えます。GMコットンとオーガニックコットン、この極端な二項対立が現在綿花業界で取り沙汰されている最大の課題です。

 次回は遺伝子組み換え綿花の対立側、オーガニックコットンについて。その後は、今最も熱いBCIコットンについて記事を書きます。




“遺伝子組み換え綿花とオーガニックコットン” への3件の返信

  1. 初めまして。
    前社(紡績メーカー)で織布、商品開発をやっていました。
    その経験から現社で紡績工程、織布工程のセミナーをやらされることがあり、話しのネタに色々調べていく過程でMr.Cotton様のサイトに行き着きました。
    とてもためになる内容ですが、昨年11月以降の更新がされておりません。お身体でも悪くされたのでしょうか。

    1. 初めまして。弊ブログをご覧いただきありがとうございます。
      体調は問題ありません!ご心配いただきありがとうございます。
      記事のストックはあるのですが、最新情報を反映させたりするのに手間取っており、更新が滞っている状態です。
      近いうちに更新しますので、また覗きに来てください。

      1. こんにちは。
        小職の投稿後、早速のBCI情報ありがとうございます。
        この手の情報は、過去の遺産はたくさんあるのですが世界的な最新情報はなかなか入手できません。紡績会社も自前で原料課を持っているところが少なくなっている(持っていても商社丸投げ?)ためか、小職の人脈では難しいのが現状です。
        お忙しいとは存じますが、更新を期待しています。

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