綿花の名称について

 このブログのタイトルもそうですが、一口に綿花と言っても様々なものを指す場合があります。綿花に関する名称だけを取ってみても、綿花、実綿、綿実、原綿、繰り綿、綿種子、綿繊維、リント、コットン、コットンボール、etc…。関係者や専門家のサイトを見ていても時折、意味合いが混ざってしまってる記事などが多く見受けられます。このブログでの今後の説明のためにも、今一度これらの用語についてまとめておきたいと思います。

 まず、これらの名称ですが主に4通りに大別できます。①種だけを指す場合、②繊維だけを指す場合、③種と繊維を指す場合、④その他に分かれます。具体的に上述した単語を分けてみましょう。

【その他】綿花(Cotton)

 いきなりその他の項目からになりますが、唯一「綿花」だけが当てはまります。というのも、綿花という単語だけはその意味合いが非常に広範囲に渡っているためです。綿が植えられている畑は「綿花畑」と言います。一方で、収穫され種取り・梱包された俵を取引すること「綿花取引」とも言います。よって、綿花という単語は畑にある状態から、工場などで加工される直前の状態までの大きい範囲を表しているのです。

 もっとも、一般的にさらに広範囲で用いられる「綿(わた)」という呼称にたいして、「めん」という音読みをすることで業界用語として定着させる意図があったともいわれています。ちなみに、「わた」の漢字も「棉」と「綿」があり、字面の通り前者は植物の状態のもの、後者は繊維だけのものを指します。

 綿花という名前の由来は、綿が栽培されている畑は、収穫期になると自然に白い繊維が飛び出し、それがまるで畑一面に白い花が咲いたかのように見えることが語源という説が最も有力とされています。

 

【種だけ】綿実、綿種子(Cotton Seed)

 綿種子は分かりやすいと思います。そのまま綿の種の状態を指します。綿実については、実綿と合わせ諸説ありますが、食用油で有名な「綿実油」という言葉があり、これは「綿実の油」という意味です。綿実油は、下の写真のような種を潰して絞った際に採取できるものです。よって、綿実=綿種子と言えるでしょう。

 ちなみに一般的な綿花栽培では、成長促進や抑制、害虫や農薬対策のために遺伝子組み換えされた種子が用いられます。遺伝子組み換え種子は一代限りの利用になるので、下の写真のように種子の周りに短い繊維は付いておらず、紫色をしています。アメリカでは、種苗会社保護や環境への影響を考慮し、遺伝子組み換え種子で収穫された綿花から取れた種子を再度栽培することは法律で禁じられています

 近年は、遺伝子組み換えされていない種子を使って栽培された綿花としてオーガニックコットンが挙げられます。しかし、これも遺伝子組み換え種子がほとんどを占める現代の綿花栽培産業において、どの程度「本当に遺伝子組み換えされていない種子」が存在するかは、いまだに不確かなままです。

 

 

【繊維だけ】繰り綿(Ginned Cotton)、リント(Lint)、原綿(Raw Cotton)

 白い綿繊維だけのわたは最も名称が多いでしょう。繰り綿とは、綿花の収穫後に種と繊維を切り離す作業を「綿繰り」ということが由来です。英語では綿繰りのことをジン(Gin)、また綿繰作業のことをジニング(Ginning)といい、綿繰を行う工場をジン工場と言います。英語名のGinned Cottonは「ジンされた綿」という意味です。

 リントはいわゆる学術用語で、長い綿繊維のものを指します。特に種に付着しているような短繊維は、リントと比較してリンター(Linter)と呼ばれます。

 原綿という呼称は、紡績業界においてよく使われます。紡績工程の一番最初の工程である繰り綿をほぐして混ぜ合わせる作業を混打綿工程と言います。紡績工程の一連の流れのなかで、一番最初すなわち源流で投入する綿であることから原綿と呼ばれています。その他、加工されていないという意味で「生綿(なまわた)」と呼ばれることもあります。

 

 

【種と繊維】実綿(じつめん・みわた)、コットンボール(Cotton Boll)

(繊維が弾けた後のコットンボール)

 畑に生えているままの状態の綿を実綿、あるいはコットンボールと言います。コットンボールは殻が開くまでは5cm径くらいのもので、乾燥して蒴果(綿が開くこと)すると白い繊維が飛び出してきます。繊維は3~5つのかたまりになっており、それぞれに5~6粒程度の種子が包まれています。綿繊維は本来、外敵から種子を守るための役割があります。人間でいうと、種子がお腹の中にいる赤ちゃんで、綿繊維が羊水といったところでしょうか。

 弾けたあとの繊維は、綺麗に簡単に剥がすことができ、まだ収穫機械がなかった南北戦争頃のアメリカでは黒人奴隷による手摘みが行われていました。現代でも、インドやアフリカなど一部の発展途上国では、手摘みが行われています。

 

(繊維が弾ける前のコットンボール)

 英語表記の際に気を付けてほしいのは、いわゆる球(ボール)を示す”Ball”という単語ではなく、”Boll”という単語が用いられていることです。よって一口にコットンボールと言っても、”Cotton Boll”と”Cotton Ball”では意味が違ってきます。”Cotto Ball”は、医療用や化粧用で使用する丸い綿ガーゼのようなものを意味します。

 

(”Cotton Ball”の写真)

 

当ブログでは、今後上記の用語について、次の通り使い分けます。特に種だけを指し示すときは「綿種子」、特に繊維だけを指し示すときは「原綿」、種と繊維の植物のものを「コットンボール」、その他綿全体を指し示すこととして「綿花」を用います。状況によって、細かい説明を加えますので、その点ご了承ください。

 




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