綿花の品質の選定基準

 日本で生産されたお米の場合、市場に流通するものは米穀検査によって品位および成分等検査が行われ、玄米・精米別に1等級・2等級・3等級・等外などに分類されます。市場に流通するものは1等級がほとんどで、等級によって価格も異なります。綿花も同じように収穫後、公的機関で品質検査が行われた後等級付けされ、等級によって取引価格が異なります。綿花の品質を決定する要素は非常に多岐にわたりますが、具体的に下記の5点が挙げられます。

  1. グレード(光沢、白度、異物混入量、ネップ)
  2. 繊維長
  3. 繊度(繊維の太さ)
  4. 繊維強度
  5. 均等性

綿花の肉体

 グレードは光沢と白度を示すカラー(Color)、異物混入量を示すトラッシュ(Trash)、そしてネップ(ほぐしにくい固まり)などの量を示すプレパレーション(Preparation)に分けられます。

 カラーは綿花が白いほど高品質となります。トラッシュは異物混入量が少ないほど良いです。主に綿花畑で収穫された際の葉カスなどを指します。光沢は8段階、白度は6段階、異物混入量は7段階に分けられます。

 繊維長はステープル(Staple)と呼ばれ、1インチを32分割して表記されます。1.3/32なら35/32インチとなるので「さんじゅうご」「さんご」などと呼ばれます。この2つは綿花の品質の中でも特に重要な項目で、よく人間にとっての「身体(Body)」にたとえられます。よく使われる36を「さぶろく」と呼ぶ人がいれば、それは業界人です。

綿花の性格

 ボディーに対し、性格(Character)となるのは下の3項目です。繊度は繊維の太さを示す単位で、英語ではマイクロネア(Micronaire)と呼ばれ、Micと略されることもあります。これはマイクロネアという機械で測定することから、こう呼ばれます。基準は、長さ1インチ当たりの繊維の重量をマイクログラム単位で示したものになります。例えば4.5マイクロネアは、1インチの重量が4.5マイクログラムであることを指します。

 繊維強度はグラムパーテックス(Grams Per Tex)と呼ばれ、GPTと略されます。繊維強度は、1000mの繊維が何グラムの重さまで引っ張ることが出来るかを表します。概ね、20~32gの間に収まります。

 均等性はユニフォーミティ(Uniformity)と呼ばれ、1俵あたりの繊維長などがどれくらい均等かを示します。綿花は植物なので、すべてが均等ではなく、様々な品質のものが混ざり合っています。その中でも、品質の均等性が高ければ、後の行程でも不具合が少なくなります。概ね、77~85%の間に収まります。

品質決定方法

 綿花の品質基準を世界的に統一しようという動きが最初に起きたのは1900年代初めでした。アメリカ農務省は、1909年にアメリカ綿について、9段階の標準規格を策定します。これが今日の綿花の標準規格の元となっている”Universal Quality Standard”です。さらに、1914年にはこれを改訂して、”Official Cotton Standards of the United States”が誕生しました。

 綿花の基準は、かつては人の目によって判別されていました。綿花の品質を鑑定することをクラッシング(Classing)と言い、鑑定人はクラッサー(Classer)と呼ばれています。約30年前まではクラッサーによるクラッシングが主流でしたが、熟練のクラッサーが減少したこと、それに伴う人件費の高騰とクラッシング技術の低下から、クラッシングの機械化が急がれていました。

 そこで誕生したのがHVI(High Volume Instrument)という鑑定機械です。HVIはそれまでクラッサーが検査していたグレードだけでなく、繊維長やマイクロネア、繊維強度や均等性などを明確な数字として表すことが出来ます。HVIは、各俵から6oz(170g)のサンプルを採取することで、その俵の品質を算出することが出来る優れものです。

 

検品方法

 では、かつてのクラッサーはどのようにして品質を決定していたのでしょうか。それは、標準見本と見比べることで行われていました。この標準見本はスタンダードボックス(Standard Box)と呼ばれ、一つの箱に6つの綿花が詰められています。すべて違う品質のものもあれば、すべて同じ品質のものもあります。

 

 

 スタンダードボックスは3年に1回改訂され、オリジナルは綿花の大本山ともいえるアメリカのテネシー州メンフィスにあるNational Bank of Commerceの地下金庫に保管されています。一方、それを元にしたコピーのスタンダードボックスは世界各国のジン工場や商社の検品室で見ることが出来ます。

 アメリカの品質基準が世界中で用いられる理由として、綿花生産量は中国やインドが圧倒的に多いですが、そのほとんどを自国で消費します。一方で、アメリカは収穫された綿花のほとんどを輸出しています。よって国際市場で流通している綿花はアメリカ産が最も多く、これが基準となっているのです。




“綿花の品質の選定基準” への3件の返信

  1. はじめまして。奈良県天理市で綿を栽培して10年目になる梅田と申します。昨日、兵庫県加古川市で開催されました「全国コットンサミット」に参加させていただき、資料の整理をしながらあれこれと検索している折りに、こちらのサイトに出会いました。私もかねがね、綿についてのまとまった(確かな)資料がないことに驚きと不思議さを感じておりました。「綿にまつわる話を、あらゆる視点からまとめ、分かりやすく説明します」とのコンセプトを心強く、膝を打つ思いで読ませていただきました。今後は、こちらのサイトもぜひ参考にさせていただきたく、楽しみにいたしております。どうぞよろしくお願いいたします。

    1. 梅田様

      拙文をご拝読頂きありがとうございます。中々不定期の更新にはなりますが、今後もコンセプトに沿って更新して参りますので、引き続きご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

  2. 第一次世界大戦ごろ、日本の綿業界は非常に大きな規模にまで育っていたわけですが、そのころの棉花・綿糸の取引単位はどのようなものであったのかご存じでしょうか? 手もとの文に、「戦中には綿糸が500円もしていたが戦後になって150円ほどまで落ち込んだ」とあります。単位金額としては非常に大きな数字ですが、一体当時はどのような単位を使っていたのであろうか、と思ったしだいです。

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